ナイトの水 ~ グランドキャニオン谷底の砂漠で水をあげる

投稿日:2015年2月21日 更新日:




グランドキャニオンの谷底は極地だ。気温35℃、乾燥した熱風の荒野を6時間も歩き続ける苦行。

観光地なのは谷の上だけ。

トレイルを下って谷底のロッジまで歩き、一泊してまた谷の上まで戻る。

標高2,000mの山下りと山登りをする試練だが、冒険家の心が疼く。そこにある常軌を逸した絶景が見たい!

立っているだけでも体力が削り取られるような気温の中、変わり映えのない景色をひたすら歩き続ける。

僕よりも年長者ばかりが谷底から上がってくるではないか。

そのタフさに敬意を表したいが、疲れるものは疲れる。

一息つこうと木陰に入る。太陽が遮られるだけで涼しく、このまま昼寝でもしようかな、と横になった。

すると谷底から上がってきた旅人が僕を見てダウンした人と思ったのだろうか、自分が持っている水をあげるよ、と陽気に話しかけてきた。

驚いた。

水を、この砂漠では貴重な命の水を!これからグランドキャニオンを1,000mも登るのに、

少し疲れただけの若い僕に自分の水をあげると言ってくるなんて。

ありがとう、僕は大丈夫。

それよりあなたこそ平気?と逆に気遣ってみると、彼は豪快に笑いながら歩き去って行った。

今からの自分の苦難を知らないはずはないのに、より良い状況の他人を気遣う余裕。

どこの国の方か分からないが、あれは騎士道の精神で僕に水をあげようとしたのだろう。

あれから歳月が流れたが、苦しい登山をするたびに、あのナイトのことが思い出されて、

決して弱音は吐けないなと次の一歩を踏み出す足に呼び掛けている。

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